営業マンと聞くと「話すのが上手い人」というイメージを持つ人は多いでしょう。しかし実際に成果を出し続ける営業マンに共通しているのは、意外にも「聞く力」が優れていることです。特に不動産営業では、お客様の本音や将来設計を正確に理解することが、契約率を左右する大きなポイントになります。
私は新人時代、「話してナンボ」と思い込み、ひたすら自分の知識を披露することに力を入れていました。ところが結果は散々で、「話を聞いてくれない営業マン」と言われ、商談を途中で切られたこともあります。この苦い経験から、営業は「伝える力」以上に「聞く力」が必要なのだと痛感しました。
失敗談:ヒアリング不足で契約を逃したケース
あるご夫婦のお客様に、新築マンションの購入提案をしたときのことです。私は物件の立地や資産価値の高さを一生懸命説明しました。ご夫婦もうなずきながら話を聞いてくださっていたので、契約に近づいていると勘違いしていました。
しかし、最終的に契約は他社に取られてしまいました。理由を後から聞くと、「あなたは商品の話ばかりで、私たちの家族の希望や不安を全然聞いてくれなかった」と言われたのです。正直、その言葉は胸に突き刺さりました。
この失敗がきっかけで、私は「お客様の言葉を引き出し、耳を傾ける力こそが営業の生命線」だと理解しました。そこからヒアリングの勉強を始め、トークの練習よりも「質問の仕方」や「聞き方」に時間を割くようになりました。
次の章では、ヒアリング力を高めるための応用テクニックを具体的に紹介します。オープンクエスチョンや共感の伝え方など、実践で効果を発揮する方法を解説していきます。
ヒアリングの応用テクニック:前半
営業におけるヒアリングは単なる「質問」ではなく、お客様の本音を引き出す技術です。ここからは、現場で効果を発揮した応用的なヒアリング手法を紹介します。
1. オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの使い分け
ヒアリングでよくある失敗が「はい・いいえ」で答えられる質問ばかりになることです。例えば「マンション購入に興味はありますか?」と聞くと「はい」か「いいえ」で終わってしまい、会話が広がりません。
ここで有効なのがオープンクエスチョンです。「将来的にどんな暮らしをイメージされていますか?」と聞くと、お客様の価値観やライフプランが自然に引き出されます。その情報こそ、後の提案やクロージングにつながる貴重な材料となります。
一方、商談の終盤では「ローンの返済は月10万円以内がよろしいですか?」といったクローズドクエスチョンを活用し、意思決定を明確にすることが重要です。状況に応じて両方を使い分けるのがプロのヒアリングです。
2. 「なぜ」を掘り下げる質問術
お客様の発言をそのまま受け取るのではなく、「なぜそう思うのか」を深掘りすることで本音に近づけます。例えば「老後が不安なんです」という答えに対して、「具体的にどんなことが不安ですか?」と聞き返すと、年金不足・子供の教育費・医療費など、より具体的な悩みが出てきます。
私はこの「なぜを掘る」質問を実践するようになってから、お客様の本心に寄り添えるようになり、提案の質が大幅に改善しました。
3. 共感を示すリフレクション
お客様の言葉をそのまま返す「リフレクション」は、信頼を築く上で非常に有効です。例えば「教育資金が不安なんです」と言われたら、「教育資金がご不安なんですね」とオウム返しをします。これにより「この人は自分の話をちゃんと聞いてくれている」と感じてもらえるのです。
さらに「それは私も同じ状況なら不安になります」と一言添えると、単なる聞き手ではなく共感者としての立場を築けます。この姿勢が後の契約への安心感につながります。
これらの応用テクニックを使うことで、商談は一方通行ではなく「対話」になり、自然とお客様が心を開くようになります。次の章では、さらに深いテクニックと、実際に信頼を勝ち取った体験談を紹介します。
ヒアリングの応用テクニック:後半
前半で紹介した「質問の種類」と「共感」の使い方に加えて、さらに一歩踏み込んだ応用テクニックがあります。これらを実践できるようになると、お客様の信頼度が格段に高まり、商談がスムーズに進むようになります。
4. 沈黙を恐れない
営業マンはつい沈黙を埋めようと話し続けてしまいがちです。しかし、あえて沈黙を活用することで、お客様は「もっと話さなければ」という心理になります。私は以前、質問の後に5秒間黙ることを実践したところ、相手が自分から深い悩みを語ってくれるようになりました。沈黙はお客様の本音を引き出す強力な武器です。
5. バックトラッキングで信頼を積み重ねる
お客様の発言を要約して返す「バックトラッキング」は、会話の理解度を高めるだけでなく、信頼感を醸成します。例えば「将来の教育費が心配」という言葉を受け、「つまり、お子さんの進学費用をしっかり準備しておきたいということですね」と返すと、お客様は「自分の意図を理解してもらえた」と感じます。
6. 自己開示を適度に使う
お客様に心を開いてもらうためには、自分も適度に弱みや体験を話すことが効果的です。私は「実は私も住宅ローンを組むときに不安がありました」と自身の経験を話すことで、お客様から「あなたも同じだったんですね」と安心してもらえました。過度な自己開示は逆効果ですが、適度な範囲なら共感を呼び込みます。
実体験:ヒアリングで信頼を勝ち取った事例
ある40代ご夫婦への提案でのことです。当初は「子供の教育資金が不安」とおっしゃっていましたが、沈黙を挟んで待ってみたところ、実は「将来的に親の介護費用も不安」という本音が出てきました。そこで、教育費と介護費の両方をカバーできる資産形成プランを提案したところ、一気に信頼をいただき契約に至ったのです。
この経験から学んだのは、「表面的な答えの裏に必ず本音がある」ということです。そしてその本音を引き出すには、テクニックだけでなく「お客様のために耳を傾ける姿勢」が不可欠だと痛感しました。
次の章では、心理学を応用したヒアリングの裏付けと、さらに実践を後押しするポイントを解説します。
心理学を活かしたヒアリング術
ヒアリング力をさらに高めるには、人の心理を理解して応用することが欠かせません。心理学的アプローチを取り入れることで、お客様との会話がより深まり、信頼を獲得しやすくなります。
1. 自己開示の返報性
人は相手が自分のことを話してくれると「自分も話そう」と思う心理を持っています。私は「実は私も社会人になりたての頃は将来が不安でした」と伝えることで、お客様から「実は私も…」と本音を聞き出せた経験があります。適度な自己開示は、お客様の心を開く鍵です。
2. 沈黙の効果
質問の後に数秒黙ると、お客様は「もっと答えなければ」と感じます。心理学的に「沈黙は相手に圧力を与える」効果があり、深い本音を引き出せます。私も実際に、沈黙の後にお客様が「本当はローンが不安で…」と語ってくださったことで、提案の方向性を修正し契約につながった経験があります。
3. 相槌とバックトラッキング
「なるほど」「おっしゃる通りですね」といった相槌に加え、お客様の言葉を少し変えて繰り返す「バックトラッキング」は信頼感を強化します。お客様は「自分の話を理解してもらえた」と安心し、さらに本音を話してくれるようになります。
まとめ:ヒアリングは契約のスタート地点
営業マンが成果を出すためには「話す力」よりも「聞く力」が重要です。ヒアリングでお客様の本音を引き出すことができれば、その後の提案もクロージングも自然とスムーズになります。
今回紹介した応用テクニック――オープンクエスチョンの活用、共感のリフレクション、沈黙の効果、自己開示の返報性――を組み合わせることで、お客様との距離は確実に縮まります。そして「この営業マンは自分のことを理解してくれる」と信頼を得られたとき、契約は自然と近づいてくるのです。
営業においてヒアリングは「契約前の準備」ではなく「契約のスタート地点」です。信頼を勝ち取りたい営業マンは、今日からでもヒアリングの質を一段階高める意識を持ってみてください。
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