営業マンが身につけたい「質問力」—会話で相手の心を動かす方法

不動産営業

営業と聞くと「いかに上手に説明できるか」「商品知識をどれだけ伝えられるか」が大切だと思われがちです。しかし、実際に成約率を大きく左右するのは質問力です。相手の本音を引き出し、隠れたニーズを言葉にしてもらうことで、営業の成功率は格段に高まります。

私は不動産営業マン時代に、まさに「話す力」ばかりを重視して大失敗を経験しました。資料を丁寧に作り込み、論理的に説明することに全力を注ぎましたが、結果として契約には結びつかないことが多かったのです。そのときに気づいたのが「自分が話す時間が長すぎて、お客様がほとんど話していなかった」という事実でした。

質問力不足で失敗した体験

入社1年目、30代前半の会社員に投資用マンションを提案したときのことです。私は物件の立地、利回り、将来性について熱心に説明しました。しかし、お客様は途中から腕を組み、無表情になってしまいました。最終的に「ちょっと考えます」と言われて商談は終了。その後、別の営業会社で契約をされたと聞きました。

後から振り返ると、私はお客様にほとんど質問をしていませんでした。「なぜ投資を考えているのか」「将来のどんな不安を解消したいのか」といった根本的な部分を聞き出せていなかったのです。自分が話すことに必死で、お客様の心に触れることができなかった結果、信頼も共感も得られなかったのです。

質問力が成果を左右する理由

営業は「相手の課題を解決する」仕事です。そのためにはまず「相手が抱えている本当の課題」を知る必要があります。課題を言葉にしてもらうには、的確な質問が欠かせません。質問によって相手の心を開き、潜在的なニーズを顕在化させることができれば、クロージングは自然と進みます。

質問力とは、単に「質問を投げかけること」ではなく、相手が気づいていない不安や願望を引き出す技術です。これを身につければ、商談の流れが大きく変わり、契約率は確実に向上します。

次の章では、私が実体験を通じて学んだ質問力の基本ステップについて解説していきます。

質問力の基本ステップ

質問力は営業マンにとっての基礎スキルです。ここでは、私自身が実体験を通して学んだ「質問の基本ステップ」を解説します。この流れを意識するだけで、相手との距離感は縮まり、信頼関係が自然に構築されます。

オープンクエスチョンで会話を広げる

「はい」「いいえ」で答えられる質問(クローズドクエスチョン)ではなく、相手に自由に答えてもらえる質問を投げかけることが重要です。例えば「将来の資産形成について、どんな点に不安を感じていますか?」と聞けば、相手の本音が自然に出やすくなります。

私は以前「購入を検討されていますか?」という閉じた質問ばかりしていました。その結果、会話が広がらず、お客様の本当のニーズにたどり着けなかったのです。オープンクエスチョンを意識してからは、お客様自身がどんどん話してくれるようになり、商談の空気が一変しました。

クローズドクエスチョンで意思を確認する

オープンクエスチョンで話が広がった後は、クローズドクエスチョンで意思を確認します。たとえば「老後の資金について、今の年金だけでは不安に感じていますか?」と聞けば、相手の考えを明確に把握できます。これにより、次の提案につなげやすくなるのです。

順序立てて掘り下げる

質問は順序が大切です。いきなり核心に迫る質問をすると相手が構えてしまうことがあります。私はまず「現在のお住まいにどんな不満がありますか?」といった身近なテーマから入り、その後に「将来の住まいや資産形成をどう考えていますか?」と段階を踏んで深掘りするようにしました。

共感を示しながら質問する

質問の際に大切なのは、ただ情報を引き出すのではなく共感を交えて質問することです。「多くの方が老後に不安を感じていますが、〇〇さんはどうですか?」といった形で前置きを加えると、相手は安心して話しやすくなります。

質問力は「聞く姿勢」で決まる

質問そのものも大事ですが、それ以上に大切なのは「真剣に聞いている姿勢」です。私は以前、質問しても返答をメモせず流してしまい、相手から「話を聞いていない」と不信感を持たれたことがあります。それ以来、必ずメモを取り、相手の言葉を繰り返すようにしました。その姿勢が信頼を得る大きな要因になったのです。

次の章では、さらに実践的な質問テクニックを具体例とともに解説し、私が契約に結びつけた事例を紹介します。

実践的な質問テクニック

ここからは、商談の現場で“そのまま使える”質問テクニックを体系化して紹介します。狙いはひとつ、相手の言葉で課題と欲求を語ってもらい、合意形成の速度を上げること。質問は攻めではなく、相手の意思決定を助けるための「道具」です。

1. 「なぜ」を掘り下げるラダリング(5段階)

表層の希望から、背景・価値観・意思決定の軸へと階段状に降りていく技法です。5回を目安に深掘りします。

  • Q1:このエリアに興味を持たれた理由は何ですか?
  • Q2:通勤以外で、その立地が役立つ場面はありますか?
  • Q3:将来の暮らし(または資産運用)で、最も避けたいリスクは?
  • Q4:そのリスクを避けられたら、どんな安心が得られますか?
  • Q5:では今回の判断で“一番大事にする基準”を一言で言うと?

ポイント:「理由→場面→リスク→安心→基準」の順で、意思決定の芯に触れます。

2. 感情ラベリング(不安を言語化する)

数字の裏にある感情を先回りして言語化すると、相手は心を開きやすくなります。

「利回りの差よりも、『空室期間が長引く不安』に重心があるように感じました。いかがでしょう?」

相手の表情や沈黙に合わせ、推測+確認で感情を可視化します。

3. スケール質問(0〜10)で具体化と合意

曖昧な評価を数値化すると、次の一手が明確になります。

「今のご検討度合いは0〜10のうちどのあたりでしょう?」
「7ですね」
「10に近づけるために、あと何が分かれば安心できますか?」

“差分”が次アクションになります(例:固定費の感度分析、管理体制の実地確認など)。

4. 前提承認+二択の誘導(選択肢クロージング前の質問)

「やる/やらない」の手前に“前提の合意”を置き、自然な選択に導きます。

「将来の年金ギャップを埋めたい、という前提は合っていますか?」
「はい」
「でしたら、駅近で流動性を優先する案と郊外で利回りを優先する案、どちらの比較から進めますか?」

5. 反事実質問(もし〜でなかったら?)で本音を引き出す

決めない理由の“核”に触れるための逆張り質問です。

「もし金利の上振れリスクが無視できるとしたら、今回の判断は前向きに進められますか?」

ここで出てくる要因(例:家賃下落・転勤・出口戦略など)が本丸。解像度を上げます。

6. サマリー質問(合意の再構成)

最後は、相手の言葉を使って要点を“要約→確認”。これが次アクションの合意書になります。

「まとめると、①空室リスクは駅近で抑える、②金利は固定で可変をヘッジ、③出口は7〜10年のレンジで検討、の3点ですね。これで合っていますか?」

実体験:質問の切り替えで逆転受注したケース

私が担当した40代会社員のA様。一次面談は盛り上がったものの、二次面談で表情が硬くなり「家族が反対していて…」と後ろ向きに。従来の私ならメリットを重ねて押してしまう場面でしたが、感情ラベリング→スケール質問→サマリー質問の順で切り替えました。

  1. 感情ラベリング:「ご家族の反対の根っこは“将来の負担増への不安”でしょうか?」
  2. スケール質問:「ご家族の安心度を0〜10で測ると今はどのあたりですか?」→「4」
  3. 差分特定:「6→7に上げるには、何がわかれば良いですか?」→「返済比率と空室時の備え」
  4. 可視化:返済比率35%以下のシナリオと、空室3ヶ月のキャッシュバッファ設計を提示
  5. サマリー質問:「家計の安全性を可視化できれば、ご家族の反対は和らぎそうでしょうか?」→「はい」

結果、A様はご家族同席の三者面談に応じ、リスク前提を共有したうえで契約に至りました。“説得”ではなく“合意形成”に質問を使うことで流れが一変した好例です。

すぐ使える質問スクリプト(不動産営業想定)

  • 現状把握:「今の住居・資産状況で“ここだけは変えたい”という点はどこですか?」
  • 目的の言語化:「今回の検討で“達成したい状態”を一言で言うと?」
  • 意思決定基準:「同じ利回りなら、流動性と節税のどちらを優先しますか?」
  • 不安の抽出:「一番の“引っかかり”はどこにありますか?」
  • 合意の固定:「では、今日は①基準のすり合わせ②リスクの可視化③次の手順、この3点まででよろしいですか?」

明日からのミニ質問リスト

  • 「それが起きると、何が一番困りますか?」(影響の深堀り)
  • 「10点満点中、今は何点ですか?」(具体化)
  • あと2点上げるには?」(差分の特定)
  • 「今の話を私の言葉で要約すると——で合っていますか?」(合意)
  • 今日決めること/持ち帰ることを分けましょう」(前進の定義)

質問は“量”ではなく“設計”。深掘り→具体化→合意の順で使い分けることで、会話は自然にクロージングへ向かいます。次章では、心理学(承認欲求・自己開示)を活用した高密度の質問設計と、明日からのチェックリストを提示します。

心理学を活かした質問設計

営業における質問力をさらに高めるためには、心理学の知見を活用することが有効です。人の意思決定は理屈だけではなく感情に大きく左右されるため、心理的効果を理解して質問を設計すると、会話の流れは一段とスムーズになります。

承認欲求に訴える質問

人は「自分を理解してほしい」「認めてもらいたい」という欲求を持っています。そのため「〇〇さんのお考えをぜひ聞かせてください」「これまでに経験された中で一番大変だったことは何ですか?」といった質問は、相手の承認欲求を満たし、信頼関係を深めます。

自己開示を引き出す質問

相手に過去の経験や失敗談を語ってもらうと、距離感が一気に縮まります。たとえば「これまでに投資で迷われた経験はありますか?」と聞くと、相手は自分の弱みや本音を話しやすくなります。自己開示が起きると、商談は心理的な壁を超えるのです。

未来志向の質問

未来を描かせる質問はモチベーションを高めます。「もし今の不安が解消されたら、どんな生活を送りたいですか?」と問いかければ、相手は理想の未来を想像し、その実現を後押しする商品・サービスに前向きになりやすいのです。

営業マンのための質問チェックリスト

  • オープンクエスチョンで会話を広げたか?
  • クローズドクエスチョンで意思を確認したか?
  • 「なぜ」を掘り下げて本音に近づいたか?
  • 感情ラベリングで不安を言語化できたか?
  • スケール質問で具体的な数値化を行ったか?
  • 承認欲求を満たす質問を投げかけたか?
  • 未来を描かせる質問をしたか?
  • 最後にサマリー質問で合意形成したか?

まとめ:質問力は営業の本質

営業は「話す力」ではなく「質問する力」で決まります。的確な質問を投げかけることで、相手の心を動かし、潜在的なニーズを引き出し、自然なクロージングにつなげることができます。

私自身も、質問力を軽視して失敗した経験から、質問を磨くことで成約率を大きく伸ばすことができました。営業マンとして成果を上げたいのであれば、商品知識以上に質問力を磨くことを意識してください。明日から実践できる質問リストを活用し、小さな成功体験を積み重ねていきましょう。

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