不動産営業マンの話し方で契約率を上げる方法|信頼を生む会話設計と実践スクリプト

不動産営業

「話し方」が変わると、商談の温度が一瞬で変わる

不動産営業マンにとって、同じ資料・同じ条件でも「話し方」で結果は大きく変わります。声のトーン、最初の一言、質問の順番、言い切り方、沈黙の取り方——。私は新人時代、話し方を軽視して契約機会を逃していましたが、会話の設計をやり直した途端、アポ率・商談化率・成約率が連鎖的に伸びました。本記事では、私の実体験をもとに、明日から現場で使える「会話設計」と「スクリプト」を電話・対面・オンラインの各場面で具体化します。

会話設計の全体像:6つのステップ

  1. 初動(関係づくり):第一声・名乗り・所要時間宣言・相手にとってのメリット提示。
  2. ヒアリング(深掘り):事実→課題→影響→理想の順に質問し、相手の言葉で記録。
  3. 要約(合意形成):ヒアリングした内容を30秒で要約し、認識を揃える。
  4. 提案(選択肢提示):単一提案よりも“比較可能な2〜3案”を提示。
  5. クロージング(次の一歩):金額判断だけでなく、段取り・期日・関与者の確定を取り付ける。
  6. 別れ際(印象固定):要点再確認と「次回までの宿題」を双方に割り振る。

重要なのは、各ステップで「誰が主役か」を常に相手側に置くこと。営業が話すのは“文脈を整えるときだけ”。それ以外は相手の言葉を引き出し、整理し、決定の不安を取り除くことに集中します。

初動トーク:5つのパーツで信頼を作る

  1. 名乗り:「◯◯不動産の△△です」
  2. 所要時間宣言:「まず5分だけ状況を伺い、合わなければすぐに引き上げます」
  3. 目的の明確化:「相場の今と、◯◯様に関係する条件整理をお持ちしました」
  4. 選択可能性の提示:「聞くだけでもOK、比較材料にしていただければ十分です」
  5. 最初の質問:「今いちばん気になっているのは〈収益性〉と〈将来の売却〉どちらでしょう?」

この初動だけで「押し売り」印象は消え、相手の主導感覚が生まれます。私はこの形に変えてから、門前払いが目に見えて減少しました。

質問設計:事実→課題→影響→理想の順で“物語”にする

いきなり提案せず、まずは相手の物語を作ります。おすすめはSPIN型(事実Situation→課題Problem→影響Implication→解決像Need-payoff)。

即使える質問リスト(投資/売買/賃貸の横断)

  • 事実:現在のお住まい(または保有物件)の状況を簡単に伺ってもよろしいですか?
  • 事実:購入・売却・賃貸のご検討は、どのタイミング・誰と進められる予定でしょう?
  • 課題:現状で一番不安なのは、金利・相場・資金計画・家族の同意のどれでしょう?
  • 課題:過去の内見や他社提案で「これは違う」と感じた点は?
  • 影響:もし今の課題が解決しなければ、1年後にどんなリスクがありますか?
  • 影響:逆に、解決できたら生活や収支はどう変わりますか?
  • 理想:理想的なゴールを一言で言うと何でしょう?(例:家族が納得/CF黒字〇万円/学区優先など)
  • 理想:意思決定までに必要な材料は何があれば足りますか?

要約の型:30秒で「あなたの言葉」を返す

ヒアリング後は、次の型で30秒要約します。「〈現状〉◯◯、〈課題〉◯◯、〈理想〉◯◯。今日は〈判断材料A/B/C〉を比較し、〈◯日までに〉方向性だけ仮決めする。これでよろしいですか?」。相手の頷きが得られれば、その後の提案は通りやすくなります。

提案は“比較”で出す:単品提示は不安を増やす

一案のみの提示は「断るか受けるか」の二択を生み、断られやすくなります。そこで私は必ず比較案(例:利回り優先/立地優先/バランス型)を用意。メリデメを正直に伝え、「どれが最も理想に近いか」を一緒に選びます。比較があると、相手の自己決定感が保たれ、後戻りが減ります。

クロージングは「段取りの合意」から

  • 期日:次の確認日・可否判断日をカレンダーに入れる。
  • 関与者:配偶者・上司・税理士など、意思決定者の同席可否を決める。
  • 宿題:双方の宿題(資料、シミュレーション、内見日程)を明確化。

「今日は契約まで決めません。◯日までに『進める/見送る/比較追加』の三択で決めましょう」——こう言うだけで心理的抵抗は激減します。

シーン別・実践スクリプト集

① 電話アポ(投資系の初回架電)

私:お忙しいところ失礼します。◯◯不動産の△△です。30秒だけお時間よろしいでしょうか?
相手:どうぞ。
私:ありがとうございます。結論だけお伝えします。いま◯◯エリアで家賃相場が上がり、表面利回り△%台の物件が出ています。比較表をお渡しするだけでも価値があると思い、お電話しました。5分だけ現状のご意向を伺って、合わなければ今日のところは引き上げます。いま大丈夫ですか?
相手:5分なら。
私:助かります。まず今、〈節税〉と〈将来の売却益〉のどちらに重きを置かれていますか?
  

② 飛び込み(売買仲介・戸建てエリア)

私:突然失礼いたします。地域の相場資料を近隣の方にお配りしています。お受け取りだけお願いします。(手渡し)
私:1分だけご説明します。◯丁目の中古が今月△件成約し、平均単価が◯万円/坪まで上がりました。ご自宅の価格帯を「売る気はない前提」で概算だけ知っておくのは無駄になりません。もし30秒、家族構成だけ伺えたら、参考レンジをお伝えできます。
  

③ 初回面談(買い顧客・実需)

私:本日はありがとうございます。最初に段取りだけ共有します。最初の10分でご希望を伺い、次の10分で相場の「現実」をお見せします。最後の10分で次に進むかは一緒に判断しましょう。まず、住まい探しのきっかけは何でしょう?
(ヒアリング→要約)
私:要約します。〈立地は◯線沿い〉〈予算は◯◯〉〈学校区優先〉。この条件だとAパターンは築年数が浅いが駅距離△分、Bは駅近だが専有面積が小さめ。どちらの妥協が許容できますか?
  

④ 断り文句への応答(簡潔版)

  • 興味がない → 「いまはタイミングではない、の認識で合っていますか?将来の比較材料として資料だけ置いていきます」
  • お金がない → 「無理な資金計画は勧めません。今は“意思決定に必要な材料”だけ集めませんか」
  • 時間がない → 「10分の枠で要点だけ。長引かせません。もし価値を感じなければ即終了します」

⑤ オンライン商談の型(Zoom/Meet)

  1. 開始1分:回線・画面共有の確認、所要時間の宣言。
  2. 前提共有:チャットに「本日の段取り」を文字で貼る。
  3. 可視化:相場グラフや比較表を画面共有、要点は赤枠で囲む。
  4. メモ共有:Googleドキュメント等に決定事項をその場で打ち込み、終了時にURL共有。

声・間・姿勢:非言語が“説得力”を運ぶ

  • :語尾を上げない。数字はやや低め・ゆっくり。
  • :重要な提案の直後は2秒沈黙。相手の思考時間を奪わない。
  • 姿勢:上体をやや前傾、手元は開く。ペンを指差しに使わない。
  • 表情:微笑を基本、共感時にだけ眉を下げる。驚き顔は封印。

NGワードと言い換え辞典

  • 「絶対お得です」→「条件が合う方には有利に働きます」
  • 「今だけです」→「需給の変化でこの水準が続く保証はありません」
  • 「簡単に通ります」→「◯◯の条件を満たせば可能性が高まります」
  • 「とりあえず契約を」→「前に進めるとしたら、次の段取りを仮置きしましょう」

台本化と脱・棒読み:3レベル練習法

  1. レベル1:読み合わせ(録音必須)…台本を感情を込めずに読み、滑らかな発音を作る。
  2. レベル2:要点キーワード化…「名乗り/時間/目的/選択/質問」の5語だけカードに書く。
  3. レベル3:即興…カードだけ見て即興で言い回しを変える。表情・間・頷きも同時に練習。

私はこの3段階を2週間継続し、電話アポ率が12%→21%、初回面談から再アポ獲得率が45%→63%に上がりました(自社内の計測)。

記録とフィードバック:改善は数字化しないと続かない

  • 会話比率:営業:顧客=4:6を目標に。話しすぎを防ぐ。
  • 質問数:10分で最低5問。1問=1分以下。
  • 要約回数:1商談で3回(中間・提案前・終了前)。
  • 沈黙秒数:重要提案の後に2秒の静止を必ず入れる。
  • 次回化率:初回→次回の予約取得率を週次でトラッキング。

ケース別ミニ台本:そのまま使える言い回し

価格交渉(買い顧客)

私:ご希望額は◯◯万円ですね。3つの道があります。(1)この価格で粘る(2)条件を一部見直して近い物件を広げる(3)指値幅を◯%までにして失注確率を下げる。どの方針が一番ご希望に近いでしょう?
  

利回り質問(投資)

私:表面で△%、実質は管理・修繕積立・固定資産税を差し引いて◯%が現実的です。将来の出口も含め、収支の谷が浅くなるシナリオを選びましょう。
  

反対意見への対処

相手:でも金利が不安で。
私:ごもっともです。金利が上がると何が一番困りますか?(…)では、金利が0.5%動いた時の月々の差額を3パターンで見て、安心できるラインを先に決めましょう。
  

オンライン時代の小ワザ

  • カメラは目線より少し上。顎を引き、光は正面から。
  • スライドは1画面1メッセージ。数字は太字・色は2色まで。
  • 商談ログはその場で共有メモに記録し、終了時にURL送付。

現場で起きた“話し方”の失敗と学び

かつて私は、良かれと思って専門用語を多用し、相手の表情が固まることが多々ありました。学びは2つ。「専門語→日常語に翻訳する」「言い切る前に一拍置き、質問で理解度を確かめる」。これだけで、伝わり方は劇的に変わります。

まとめ:話し方は才能ではなく“設計”と“反復”

不動産営業の成果は、センスよりも設計と反復で決まります。初動で主導権を相手に渡し、質問の順番で物語を作り、要約で合意を固め、比較提案で自己決定感を担保し、クロージングは段取りの合意から入る。非言語(声・間・姿勢)とNGワードの言い換えを整え、録音→数値化→改善のサイクルを回す。明日からひとつでも取り入れてください。あなたの話し方は、必ず武器になります。

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